【書評】「持たない」ビジネス儲けのカラクリ。マイホームは買わない方がいい?

流通ジャーナリストの金子哲雄さんが書いた本でとても読みやすいです。

本書で語られているのはマイホームを持つ持たないに代表されるような個人向けの「持たない」論。

資産を持つ持たない、工場を持つ持たないに代表されるような企業向けの「持たない」論。

これらが実例を交え語られているのに加え、国際競争力を得るためにどうすればいいか、「持たない」ことによるデメリットとは何か、などが書かれています。

要点をまとめつつ感想を書いていきます。

マイホームは持たない方がいい?

著者はマイホームを持たず賃貸で暮らすことを推進しています。

理由は、マイホーム購入の際に支払う金額に加えて、管理費や修繕積立金(マンションの場合)、固定資産税などを合わせると賃貸よりも総支払額が大きくなってしまうから。

資産が残るじゃないか、という意見に対しても最終的に売れるなら資産になるかもしれないが売れないのであれば資産とは言えないという趣旨で語っています。

そんな著者はURに住んでいるようで、URはコストパフォーマンス的に優れていると言っています。

マイホームを持つことに対しては昔から賃貸とどちらがお得か?などの論争が繰り広げられてきたと思います。

個人的には車は所有しているので、マイホームに関しても所有することの喜びやメリットは多くあると思っています。

ただ、それが雇用環境の変化や経済状況の変化で一箇所に住むことによるリスク、35年ローンなどの長期ローンを組むリスクが出てきてしまっているということです。

35年間収入が変わらないとどうして言えるのでしょうか?

家を持つことの喜びに変化はないけど、それを実現するための生涯働ける職場だったり、生涯伸びていく収入曲線だったりを確保することが難しいため、結果的にマイホームを持つことは昔よりもリスキーになっているというのは事実だと思います。

昔よりも変化の激しい社会になっている今、これから先は昔のように戻ることはなく、さらに変化が激しくなっていくと予想されるので、家を持つ喜びだけを目的に購入するのは危険かもしれませんね。

もちろん、生涯働ける職場やスキル、安定的な収入源がすでにあるのであれば、リスクはないも同然なので購入を検討するのは全然ありだと思います。

企業も持たない企業が変化に強く生き残れる

インターネットの発達のおかげで、地理的な要因に左右されることは少なくなりました。

たとえば、ネットで仕事をしているノマドワーカーのような人の場合、どこにいても仕事ができるため、家賃の安い地域に住んだ方が生活コストは安く済みます。

それと同じようなことを企業はおこなっています。

日本企業であっても人件費の安い東南アジアに外注したり、土地の安い国に工場を作ったりです。

これの最たる形が、自社では工場も正社員も抱えず全てを外注する方法です。

本の中で紹介されていた実例はこれらです

・資産を保有するダイエーと保有しないイトーヨーカ堂
・店舗を持たないテレビショッピング(長崎から全国へ営業)
・店舗を保有せずインターネット専業でビジネス展開する楽天
・受託生産に特化した鴻海精密工業の技術力
・設備投資はするけど自社工場は持たないアップル

これらで特に印象的だったのが、数社に外注することによって競争が生まれ、最終的に納入商品のクオリティがあがり価格も抑えられるというものでした。

個人的には、外注するとクオリティが下がってしまうと感じていました。外注もひとつの手段ではあるが、理想は自社で人を抱えて開発生産することがクオリティアップや長期的な競争力につながると…

蓋を開けてみると全然そんなことはありませんでした。もちろん、外注といっても仕様書を投げて終わりではなく厳密な生産管理が必要となります。

アップルは外注はするけど生産管理にかなりのコストを割いており、その結果自社で工場を持たなくてもユーザー満足度の高い商品が送り出されているというわけです。

さらに今回勉強になったのが鴻海精密工業についてです。

シャープが業務提携するという話題でニュースで取り上げられていましたが、この鴻海精密工業が一体どういう企業であるかはいまいちわかっていませんでした。

鴻海精密工業は受託専門の企業であり、世界中の大手電気メーカーやスマホメーカーから依頼を受けてそれを自社の工場で作っています。ここでポイントなのか情報の機密性です。

様々な企業が鴻海精密工業に依頼し商品や部品を作っているため、その情報が外に出てしまっては企業ブランドが傷ついてしまいます。

たとえばライバル企業のアップルとサムスンが同じ工場の同じ生産ラインで作られているなどです。

鴻海精密工業は仕事を受けている社名を一切公表しておらず、具体的に社名が漏れたこともないため、そこも信頼につながっているようです。

それぞれの企業が外注を採用しはじめた結果、鴻海精密工業のような受託に特化した企業が儲かるというのはなんだか面白いですね。

「持たない」ことによるデメリットとは何か

これは人材がいなくなってしまうということです。

安くあがる、効率的に儲かる、そうしないと生き延びれない

という理由で東南アジアなどに外注したり社員を雇わないやり方を続けていては、

国内での雇用の余地がほぼなくなってしまいます。

労働者は消費者でもあることから、こうした流れは結果的に企業や経営者の首をしめることになりかねません。

そのことから、今は、国際的な競争力を高めるうえに、国内の雇用も確保できるというウルトラCが求められています。

まとめ

なかなかに興味深い内容でした。

知っているようなこともありましたが、深くは理解していなかったんだと気付かされました。

急な変化への対応が求められる時代、儲けの方法が一律ではなくなった時代、

難易度はあがってるように感じますが、「持つ」前提から「持たない」前提にシフトすれば何か光明が見えてくるかもしれません。

車を持っているのもいつか足かせになってしまうんでしょうかね汗

もう一度再考してみます。